整理と雑記

気が向いたら書く

花譜という不可解な虚構 前編

「花譜」というヴァーチャルシンガーがいる。彼女の存在について感じたこと、考えたことを書き留めておく。

私が花譜の存在を知ったのは彼女の1stワンマンライブ「不可解」のクラウドファンディングに関するニュースだった。盛況らしいとのことだったので取り敢えず彼女の音楽をチェックすることにした。

私がはじめて聴いたのは「雛鳥」という曲だった。凄く綺麗な声の子だな、と思った。Aimerの声を初めて聴いた時と近い感覚があったのだが、もっと脆くて幼い印象だった。

youtu.be

「この子は凄い。凄い子が現れた。」と興奮していたのを良く覚えている。私はすぐにクラウドファンディングで彼女を支援することを決めた。彼女のライブに行きたかった。しかし、ライブチケット付きのプランはすでにソールドアウトしていた。後に行われる一般販売というチケット戦争にも私は負け、彼女のライブを生で見るという願いは叶わなかった。後に販売されるライブビューイングのチケットを購入し、私はスクリーン越しで花譜を観測することになる。

花譜は一体何者なのだろう。そう思って過去の曲を聴きながら私は彼女の情報を追った。彼女は15歳の少女なのだという。受験勉強で活動休止していたこと、私が聴いた「雛鳥」は復帰作だったことを知った。正直、これがそういう設定であるという考え方はできるのだけど、私はこの子は本当に15歳なんだろうと信じていた。根拠は特になかった。

そんな折、運営からある発信があった。そこでは花譜が本当に15歳の女の子であること、彼女が身を置く環境、プライバシーを鑑みてヴァーチャルシンガーという形で音楽活動を行っていること、そして運営の花譜に対する思いが綴られていた。

note.mu

この運営の発表は今から20年ほど前の1999年3月8日、宇多田ヒカルのスタッフが発信したものと良く似ていた。時は1stアルバム「First Love」のリリース直前まで遡る。当時の宇多田ヒカルは16歳、花譜と同じように高校生だった。既にスターになっていた宇多田ヒカルに関してスタッフは以下のように綴っている。

最近色々なマスコミなどから、宇多田ヒカルに関する東芝EMIの対応に「納得がいかない」「過保護である」という意見をよく耳にするようになりました。そこで我々の姿勢ならびに今後の考え方を改めて皆様に提示したいと思います。
宇多田ヒカルはアーティストとはいえ現在16歳の、学業のある普通の学生です。勉強をしたり、友達と遊んだり、恋をしたりなど、学生生活を自然に過ごしたいという本人の意志もあり、我々スタッフも彼女の考えに大賛成しています。そうした普段の生活があるからこそ、彼女のクリエイテヴィティーは形成されるものだし、何よりも大人になる誰もが経験する青春を、彼女にも普通に体験して欲しいと我々は願っています。
「宇多田ヒカルのプロモーション現状及び今後についての東芝EMIの考え方(1999.03.08)」
Hikaru Utada Official Website | MESSAGE from Staff

知名度が上がっていく中でデマが拡散され、あらぬ誤解を受けることは少なくない。実際、宇多田ヒカルのスタッフブログを追っていくとメディアから報じられたデマを否定する記事が多く見られた。

花譜に関しても同様のことが起こっている。心臓と絡繰が100万再生を超えたことを受けて再生数工作をしていると一部ニュースメディアで報じられ、運営がその事実を否定している(工作しているという記事を出していたのはいわゆるまとめブログだったようだが)。

インターネットが発展して、様々な情報が検知しやすい時代になったと思う。私が花譜を観測したのもインターネットの恩恵があったからこそである。

一方で悪意が容易に拡散される時代にもなったなと感じることが年々増えている。悪意あるデマを拡散する人はもちろん、悪意なくそれを拡散してしまう人もいる。インターネットを通してクリエイティヴを達成するには、そんな悪意に耐えうるメンタルが求められているんだよなとも思う。それが悲しいことだとも。

花譜を雛鳥と形容するのはその通りだなと思う。彼女はまだ大人の庇護下にいて、1人でその悪意に立ち向かうにはあまりにも脆い。無数の悪意から守ってやる親鳥が必要である。「不可解」を開催する前に運営が行った発信は運営自身の決意の表れなんだろうなと思った。私たちが彼女の親鳥である。運営がそう表明しているように見えた。

運営が「不可解」に関わる人たちのことを「共犯者」と表現したことはとてもユニークだなと思った。私たちは彼女を支持して花譜と共犯関係と結んだ。彼女を世に出す一助となった。あまり他人事でもないよな。そう思った。

再び宇多田ヒカルのスタッフの言葉を引用する。他人に強制する気はないけど、私はこうありたいなと思っている。1人のファンとして。共犯者として。

我々は今後も彼女と長くパートナーとしてつき合って行きたいと考えています。そのためにもまず我々が努力し、高いレベルでの判断力が伴った行動で臨まなくてはならないと思っています。
「宇多田ヒカルのプロモーション現状及び今後についての東芝EMIの考え方(1999.03.08)」
Hikaru Utada Official Website | MESSAGE from Staff

そんなことを思いながら私は「不可解」の当日を迎えた。

後編へ続く。

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