整理と雑記

気が向いたら書く

人目を避けて眠る【君は放課後インソムニア/オジロマコト】

先日、不眠症について取り扱う漫画が発売された。タイトルは「君は放課後インソムニア」という。その漫画について書き留めておく。  

www.shogakukan.co.jp

本作は、いわゆるボーイミーツガールである。不眠症に悩まされる男子高校生、中見丸太が同じように不眠で悩まされる同級生の少女、曲伊咲と出会い、交流を深めていく、というものだ。  

  発症原因

第1話では導入として不眠症の人間が抱えている悩みについて描かれる。  

象徴的なのは中見が幼なじみの受川に自分の夜の過ごし方について語るシーンである。

夜になると目がさえて、眠くなるかとおもって参考書をひらくけど、朝には3冊目に突入。おかげで順位はおとさずすんでるけど。
眠れないとマイナスな事ばかり考えて、不安とイライラでまた目がさえる。
12時にフトンに入って寝ようとする。けど眠れないまま時間が過ぎてく。
3時くらいに新聞配達のバイクの音がして、5時には向かいに住む年寄りの家のシャッターが開く音。
空が明るくなっていってカーテンから光がすけて、朝がきて絶望する。
昼間は死ぬほど眠くて頭がいたくてイライラして現実味がなくなってくる。どうしよう受川が俺の幻覚だったら。
引用元:君は放課後インソムニア 第1話(第1巻収録)

不眠症の発症原因はPredisposing factor(素因)、Precipitating factor(増悪因子)、Perpetuating factor(遷延因子)の3つのPで語られる。  

素因はいわゆる体質を示す。良く汗をかくとか肌が荒れやすいように不眠に陥りやすい人が居るということである。

増悪因子は不眠症の原因にあたるものであるが、それは心配事のような精神的なものもあれば、服用している薬の副作用、アルコール等であったりもする。

上記で中見が語っているのは3つ目の遷延因子についてである。遷延因子は不眠が慢性化する原因になるものである。不眠を経験したことによって不眠に対する恐怖を抱えてしまい、その恐怖から脱却するために睡眠に対して過剰な努力を行ってしまう。しかし、その努力を行うことで睡眠習慣が乱れてしまい、一層眠れなくなってしまうのである。

f:id:satoec5:20190918084931j:plain
不眠症を慢性化させる「3つのP」とは|ナショジオ|NIKKEI STYLE

後ろめたさ

遷延因子によって不眠が慢性化した場合、最善策は医師に相談し治療することなのだが、2人がそれを行ってはいない。それは不眠症が病気であるという認識の薄さを示していたように思う。「夜眠れない」とか「昼間にウトウトしてしまう」ということは日常生活でしばしば起きるものの、それは疲れているせいであったり、前日に夜更かししたせいなのだなと思って放置してしまう。大抵の場合はそれで慢性化する前に治ってしまい、また元の生活に戻ることができる。睡眠が日常生活に馴染み過ぎているがゆえに、問題を認識しづらく自責の念に囚われてしまうんじゃないかと思う。

不眠に悩まされる中見と曲は自分が変だと評している。中見の不眠を知っているのは幼なじみの受川のみで、曲にいたっては誰にも打ち明けていなかった。彼らは周囲が当たり前にできている日常を正常にこなせないことに後ろめたさを感じている。自分はおかしなやつだから、頑張らなくては。そういう思いから2人は不眠を自己解決しようと模索し、結果として不眠を加速させているのである。

f:id:satoec5:20190913092956p:plainf:id:satoec5:20190913093015p:plain
引用元:君は放課後インソムニア 第1話(第1巻収録)

周囲の評価

2人が不眠を病気だと思えないように、周囲の人間もまたそう思ってはくれない。  

第1話にて、中見は文化祭の準備を手早くこなして1人眠っていたところ、クラスメイトからサボるなと言われてしまう。彼は周囲にいる遊んでばかりいる人間がいることと、その人たちより自分が仕事をしていることを指摘するが聞き入れられることはなかった。  

これは覚醒していることが周囲の評価の基準になっていることを示していた。日中に眠ってしまうと怠惰であると見なされ、非難されるのである。例えそれが実は治療が必要なレベルであっても。

風邪をひいた時それは体調不良と見なされ、学校を休むことができるだろう。しかし、夜眠れなくて眠くて仕方ないから学校を休みたいと言ったら周囲は認めてくれるのだろうか。馬鹿なこと言ってないで学校に行きなさいと言われてしまうんじゃないだろうか。

シェルター

誰にも不眠の悩みを打ち明けられずにいた曲は天文台に誰も来ないように幽霊が出るという噂を流し、天文台を1人で眠る場所として獲得した。中見は周囲から孤立して、誰も怖がって行かない天文台に1人追いやられる。周囲から弾き出された2人はネガティヴな方向で天文台に収束し、後ろ向きに運命的な形で彼らは出会うことになる。第1巻の冒頭と最後に天文台の絵が描かれている。私には天文台が災害から2人を守るシェルターのように見えた。

左 引用元:君は放課後インソムニア 第1話(第1巻収録)
右 引用元:君は放課後インソムニア 第8話(第1巻収録)

補完

中見は曲のぬくもりに触れ、曲は中見の鼓動を聞いて眠った。同じ悩みを抱えた他者の存在を感じることで彼らは安心していたように見える。自分だけがおかしいわけではないと知ることができたのが大きかったんじゃないだろうか。孤独はきっと不眠を加速させている。不眠が慢性化しつつあった2人は互いを補完しあって、少しずつ改善へと向かっていくのだ。

f:id:satoec5:20190925085536p:plainf:id:satoec5:20190925085548p:plain
左 引用元:君は放課後インソムニア 第1話(第1巻収録)
右 引用元:君は放課後インソムニア 第8話(第1巻収録)

  国民病

作中でも触れられているが、睡眠に関して悩みを抱えている人間は少なくない。日本では全国で5人に1人*1は睡眠に関して悩みを抱えるらしい。私も何年か前に不眠症ではなかったが、睡眠障害を抱えたことがあった。自分がおかしくなってしまったんじゃないかと思って当時は酷く混乱したことを良く覚えている。私の場合はいつの間にか治ってしまって、元の日常に戻っていった。そういう経験があるから、20%の人が睡眠に悩みを抱えていると言っても不思議には思わない。一方でそういう人たちの姿を私が知ることはないのだろうなと思う。彼らは人目を避けて眠っているから。  

君は放課後インソムニア (1) (ビッグコミックス)

君は放課後インソムニア (1) (ビッグコミックス)