整理と雑記

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『未来のミライ』と「家族」

2018年7月20日『未来のミライ』が公開された。本作を通して家族について書いていく。

役割

『未来のミライ』は人間が誰しも「家族」というコミュニティに属しており、それぞれが役割が与えられることが描写されている。未来のミライの登場人物で名前を持つのはミライちゃんだけであり、くんちゃんの名前はぼやかされ、他の登場人物は役割で呼称される。

元々おとうさんは「父」、おかあさんは「母」、くんちゃんは「息子」として家族の中に居た。しかし、ミライちゃんの誕生により関係性が変質した。くんちゃんは新たに「兄」という役割を担うことになった。彼もそれをどこかで理解しており、ミライちゃんが家に来てまもなく彼なりに兄らしい振る舞いを始める。

不運

兄らしく振る舞おうと努めたくんちゃんであったが、彼にとって不運が2つあった。

1つは、彼の「兄」としての振る舞いがミライちゃんひいては家族に認められなかったことである。ミライちゃんと良好な兄妹関係を築けず、くんちゃんは苛立ち始めミライちゃんに攻撃し始めてしまう。おかあさんに叱られ、くんちゃんはますます不機嫌になってしまう。くんちゃんはミライちゃんを「好きくない」と思うようになった。

もう1つは、おとうさんとおかあさんが「親」としての役割を十分に果たせなかったことである。ミライちゃんの誕生により彼らはミライちゃんの「親」となった。そして同時にくんちゃんの「親」だったはずが、ミライちゃんに手一杯となってしまいくんちゃんの「親」としては十分に機能しなくなってしまった。

ミライちゃんの兄になることができず、おとうさんとおかあさんが自分を息子として扱われないことでくんちゃんは家族の中で自分の場所を見失ってしまう。

名前

家族から弾き出されてしまったくんちゃんは自分が何者かを確認するために庭から旅に出ることにした。しかし様々な出会いの中でも不安から解放されることはなかった。

くんちゃんの不安が解消されるのは未来の東京の駅でのシーンだった。駅で迷子になってしまったくんちゃんは自己の喪失を看破され、自分の存在を証明することを求められる。家族の中での役割を再定義することで彼は家族の中に戻れるということだ。そこで重要なのは一意とするということだった。お父さんの息子、お母さんの息子では彼の自己は確立されないのだ。

迷った末に彼は「名前」を見つける。彼は「ミライちゃんの兄」であることを口にすることで相対的に自分の家族の中でどの位置にいるかを理解するに至った。この瞬間、彼は本当の意味で「兄」となり、家族の中に戻ることができたのだ。




『未来のミライ』は子どものアイデンティティは絶対的なものではなく、家族を通して初めて理解できる相対的なものであることを描いた。それは子どもが繊細で不安定なものであり、家族に依存していることを示している。子どもはいずれ依存している家族を離れて自分自身のアイデンティティを確立することが必要になる。家族に依らずに自己を確立すること、それが自立なのかもしれない。

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