整理と雑記

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恩田希から見る『さよならフットボール』

新川直司の作品である『さよならフットボール』と『さよなら私のクラマー』は世界観を共有している。そして両作品の中心にいるのは「恩田希」という人物である。

『さよならフットボール』は恩田希の中学時代、そして『さよなら私のクラマー』は彼女の高校時代の物語になる。

今回は『さよならフットボール』を中心に書いていく。

『さよなら私のクラマー』については以下。

seiritozakki.hatenablog.com

※以降『さよならフットボール』と『さよなら私のクラマー』に関するネタバレが含まれる。

恩田希というフットボーラー

まず恩田希がどんなフットボーラーなのかという点について書いていく。

結論から言って恩田希は非常に才能のある選手である。『さよなら私のクラマー』においては久乃木学園で天才と称される井藤春名や浦和邦成のエース桐島千花がその才能に驚愕することになる。一方で彼女たちは恩田希という選手を全く認知していない。

※久乃木学園は全国制覇を果たした現在日本トップの高校であり、浦和邦成は埼玉県予選を8連覇中の強豪である。

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左 引用元:さよなら私のクラマー 第5話(第2巻収録)
右 引用元:さよなら私のクラマー 第14話(第4巻収録予定)

不遇な中学時代

恩田希が周囲から認知されていない理由について彼女の幼馴染である越前佐和は以下のように語っている。

私達の中学には女子サッカー部はなくて男子サッカー部に所属していました。人一倍練習して男子とも対等に渡り合っても試合に使ってもらえなかった。ノンちゃんはずっとーーひとりぼっちでした。
引用元:さよなら私のクラマー 第14話(第4巻収録予定)

越前の言葉は『さよならフットボール』で語られる彼女たちの中学時代のことを指している。彼女たちの通う藤第一中学には女子サッカー部がなく、周囲に女子サッカーのクラブチームも存在しない。そのため恩田は男子サッカー部に混ざる形でプレイするという選択をする他なかった。しかしサッカー部の顧問である鮫島監督の「女の子は男の試合に出さない」という方針で公式戦の出場は許されず、彼女は自身のあり方に悩み続けることになる。

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左 引用元:さよならフットボール 第1話(第1巻収録)
右 引用元:さよならフットボール 第2話(第1巻収録)

鮫島監督の思い

鮫島監督は頑なに恩田を試合に出さないとしていたが、彼女を過小評価していたわけではない。むしろ彼女に才能を見出していたのである。新人戦前の紅白戦に出場した恩田を見て彼は以下のような思いを口にしている。

凄いな恩田は…。恩田を見てるとヨハン・クライフの言葉を思い出すよ。恩田は凄い…。だからこそ惜しい。「恩田が男だったら」と思わない日はないよ…。
引用元:さよならフットボール 第3話(第1巻収録)

彼が恩田を試合で使わなかったのは男女の体格差に対して懸念があったからである。しかし新人戦での恩田のプレイを目の当たりにした彼は自分の選択を悔いることになる。

※鮫島監督の方針通り恩田は新人戦のメンバーから外れていたが策を講じて出場を強行した。

f:id:satoec5:20170904000627p:plain 引用元:さよならフットボール 第7話(第2巻収録)

f:id:satoec5:20170904000416p:plain 引用元:さよならフットボール 最終話(第2巻収録)

しかし恩田はこの試合で怪我をしてしまっており、彼の方針は間違っていたとは言えない。彼が試合で恩田を使い続けた結果、恩田の選手生命を閉ざしてしまった可能性も否定できないからである。

女子サッカーの世界へ

新人戦での恩田のプレイを見た鮫島監督は彼女に女子サッカーの未来を見るようになる。

f:id:satoec5:20170903235149p:plain 引用元:新装版 さよならフットボール(2) 最終話(第2巻収録)

その後、鮫島監督は恩田に女子サッカーの世界に行くことを強く薦める。しかしずっと男子とプレイし続けていた彼女にとって女子サッカーは魅力的なものではなかった。恩田は男子と比べてレベルが落ちるとしてその気はないことを鮫島監督に伝える。そんな彼女に対して鮫島監督は以下のような言葉を送った。

恩田、才能を出し惜しみするな。人にはそれぞれにふさわしい場所がある。そこでお前の才能を見せつけてやれ。思う存分暴れてこい。世界中の人々が手も使えない不自由なスポーツに何故こうも熱狂するのか。その理由を俺達に見せつけてくれーー。お前は女子サッカーに行くんだ。
引用元:さよなら私のクラマー 第3話(第1巻収録)

この言葉をきっかけに恩田は女子サッカーの道に進むことを決意し『さよなら私のクラマー』へと繋がっていくことになる。

恩田希のルーツ

次に恩田希のフットボールの原点ついて触れていく。恩田希とフットボールの出会いは『さよならフットボール』で詳しく語られている。

初めてのフットボール

恩田希がフットボールを始めるきっかけになったのは4歳の頃にあった公園の取り合いだった。そして彼女はそこでテクニックではなくフィジカルの差によって負けてしまう。彼女はフィジカルにものを言わせたプレイに面白さを見出すことはできなかった。

f:id:satoec5:20170831010359p:plain 引用元:新装版 さよならフットボール(2) 第6話(第2巻収録)

最初は負けん気から始めたフットボールであったが、やがて彼女はスポーツ少年団への入団をきっかけに本格的にフットボールの世界に飛び込んでいくことになる。しかし年を経るごとに彼女と周囲の体格差は広がっていき、彼女はまた男女の体格差に悩まされることになるのである。

華麗なるフットボール

初めてのフットボールでフィジカルコンタクトに苦しみ、そこに楽しさを見出せなかった恩田希だったが、やがて彼女はフランス代表のプレイ、特にジネディーヌ・ヤジッド・ジダンに魅了される。この時の熱狂が彼女の原点となる。

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引用元:新装版 さよならフットボール(2) 第7話(第2巻収録)
※ジズーとはジネディーヌ・ヤジッド・ジダンの愛称である。

フィジカルに悩まされ続けた彼女はこの時の気持ちを思い出し、パス主体のプレイスタイルに活路を見出すことになる。体格差によって個で勝てない自分の存在意義を周囲の選手を活かすことに見出したのであった。

f:id:satoec5:20171009210344p:plain 引用元:新装版 さよならフットボール(2) 第6話(第2巻収録)




『さよならフットボール』は恩田希が自身の過去を振り返り、フットボーラーとしてのあり方を見つめ直す作品である。そして悩み抜いた末に「華麗なるフットボール」というものを回答として見出した。『さよならフットボール』で葛藤し、それを払拭した過去があったからこそ『さよなら私のクラマー』の彼女の姿があるのである。

また『さよなら私のクラマー』では恩田希と同様に中学時代に不遇な過去を持つ人物が多く登場し、恩田希は彼女たちに様々な影響を与えていくことになる。また恩田自身も多くの出会いを経験することで自分自身の過去に抱いた思いや現在のあり方を問い直すことになる。

冒頭でも述べたが『さよなら私のクラマー』という物語において恩田希は極めて重要な役割を果たしている。彼女の過去を読み解くことが『さよなら私のクラマー』の作品像を理解する鍵となるだろう。




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