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恩田希から見る『さよなら私のクラマー』

新川直司の作品である『さよならフットボール』と『さよなら私のクラマー』は世界観を共有している。そして両作品の中心にいるのは「恩田希」という人物である。

『さよならフットボール』は恩田希の中学時代、そして『さよなら私のクラマー』は彼女の高校時代の物語になる。

今回は『さよなら私のクラマー』を中心に書いていく。

『さよならフットボール』については以下。

seiritozakki.hatenablog.com

※以降『さよならフットボール』と『さよなら私のクラマー』に関するネタバレが含まれる。

時系列

最初に物語の時系列を整理する。

  1. 藤第一中 vs 江上西中(さよならフットボール、第1巻-第2巻)
  2. 恩田希、蕨青南高校女子サッカー部に入部(さよなら私のクラマー、第1巻)
  3. 蕨青南 vs 久乃木学園(さよなら私のクラマー、第1巻-第2巻)
  4. フットサル大会(さよなら私のクラマー、第2巻-第3巻)
  5. 蕨青南 vs 浦和邦成(さよなら私のクラマー、第3巻-第5巻)
  6. 蕨青南、インターリーグに出場(さよなら私のクラマー、第5巻-現在)

恩田希を変えたもの

恩田希は女子サッカーの世界に飛び込み、様々な出会いを果たす。そしてそれは彼女が中学時代から心のどこかで抱えていた悩みを解決することにもなる。

孤独

恩田希の中学時代は孤独との戦いだった。年々広がっていく周囲とのフィジカルの差に1人苦しみながらも江上西中との試合を最後にフットボールに別れを告げ、以降のフットボールは彼女にとって余生となるはずだった。しかし高校の進路を具体的に決めていなかった彼女は鮫島監督の強い勧めもあって女子サッカー部に入部することになる。

入部当初、幼馴染の越前佐和は恩田に次のような言葉をかける。

これからきっと夢みたいなフットボール生活が待ってるよ。ソンちゃんやスーちゃん、みんながいるんだもん。もう1人じゃないんだもん。楽しみだね。
引用元:さよなら私のクラマー 第2話(第1巻収録)

恩田がその言葉に頷くことはなかった。彼女にとってのフットボールはまだ余生だった。

久乃木学園との出会い

恩田は初めての対外試合で久乃木学園との練習試合に挑む。この試合を通して彼女は一度別れを告げたフットボールとまた出会うことになる。

久乃木学園の10番である井藤春名は恩田と直接対峙し、その才能を見せつけた。それは中学時代にフィジカルで負け続けてきた恩田が純粋な技術で敗北した瞬間だった。この時初めて彼女は鮫島監督が女子サッカーを勧めた理由と入部当初に越前が言った言葉の意味を知ることになる。こうして恩田希のフットボールがまた始まるのだった。

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引用元:さよなら私のクラマー 第3話(第1巻収録)

フットサル大会で井藤たちと再会した恩田は当時の試合についてこう語った。

あんた達とやりあってさ。日本のサッカーの可能性っていうのかな。なんかよくわかんないけど、なんか感動したんだよね。ありがとう。21点も叩き込んでくれて。ありがとう。私達と本気で戦ってくれて。
引用元:さよなら私のクラマー 第13話(第4巻収録)

チームメイト

フットボール大会後に曽志崎緑は以下のような台詞を口にした。

アスリートはさ。孤独な奴が多いよ。チームにいるからって理解し合っているワケじゃない。
だから嬉しいのさ。遠くても自分に近い人間がいると。みんなひとりぼっちだ。あんたはどうだった?恩田希。
引用元:さよなら私のクラマー 第14話(第4巻収録)

恩田がその言葉の答えを見つけるのは夏の総体の浦和邦成戦になる。彼女はこの試合でその才能を覚醒させ、浦和邦成を圧倒した。深い集中に入りスタンドプレーを続けた彼女はやがてブロックされ、転倒してしまう。その時彼女が見たのは止まってしまったボールを追うチームメイトの姿、そして敵チームの姿だった。それはチームスポーツとしては当たり前の光景なのだが、彼女にとって今までとは違って見えたのだ。

女子サッカー部入部当初、彼女は周防すみれにこんなことを言っていた。

サッカーはみんなでやった方が楽しいじゃん。
引用元:さよなら私のクラマー 第1話(第1巻収録)

「みんなでサッカーをやること」、それは彼女がずっと求めていたことだった。中学時代の彼女のフットボールは性差との戦いであり、チームメイトは仲間でありつつも敵だった。浦和邦成戦で彼女は今の自分が女子サッカー部に所属していること、チームでサッカーをしていること、周りに仲間がいること、そして自分がもう孤独じゃないことを知ったのだった。

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引用元:さよなら私のクラマー 第19話(第5巻収録)

恩田希が変えたもの

恩田希は女子サッカーの世界に飛び込んだことで様々な刺激を受け、成長していった。一方で恩田自身も周囲に影響を与えている。

周防すみれ

周防すみれは恩田希と同じ蕨青南高校に通う女子サッカー部の1年生である。彼女もまた恩田と同様に不遇な中学時代を送っている。

周防はチームメンバーに恵まれなかったことで活躍の場を得られなかった。彼女はフットボーラーとして突出した才能を持っており練習に対してもストイックな姿勢で臨んでいた。しかし周囲は彼女のレベルについていくことはできず、彼女は試合で孤軍奮闘せざるを得なかった。

周防自身が語ることはないが、彼女には幼少期にパスサッカーを見てときめくという場面が存在する。チームプレーに憧れがあったものの周囲の環境がそれを許さなかったのだろう。

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引用元:さよなら私のクラマー 第1話(第1巻収録)

女子サッカー部入部初日、周防は恩田のプレーを通して環境の変化を実感することになる。入部初日に行われた紅白戦で周防はドリブル突破に失敗し転倒してしまう。これは中学時代最後の地区予選と同じシチュエーションである。地区予選では誰もサポートには入れず周防は1人で対処しようとした末に失敗、そのプレーを最後に中学最後の夏を終えることになった。

一方、蕨青南の紅白戦では周防が取りこぼしたボールを恩田がサポートに入り、チームプレーをもって得点に繋げることに成功する。恩田のプレーを目の当たりにした周防は幼少期と同じように心臓の高鳴りを感じていた。彼女にとっては初めてチームで点を取った瞬間だったのかもしれない。彼女のフットボールは蕨青南に入り、恩田たちと出会ったことで始まったのである。

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引用元:さよなら私のクラマー 第20話(第6巻収録予定)

井藤春名

井藤春名は恩田と同じようにフィジカルの弱さによって不遇な中学時代を送っていた。彼女の所属しているクラブチームがフィジカルの強さを重んじる方針であり、その方針から外れた彼女はその才能が発揮されることなく中学時代を終えることになった。

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引用元:さよなら私のクラマー 第8話(第3巻収録)

久乃木学園進学後、井藤は蕨青南との練習試合を通じて恩田希と出会う。フィジカルが優先される環境にいた彼女にとって恩田のようなプレーをするフットボーラーとの出会いは新鮮なものだった。彼女は恩田希というフットボーラーに興味を持った。

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引用元:さよなら私のクラマー 第5話(第2巻収録)

フットサル大会で井藤は恩田と再会し、同じチームでプレーすることになる。そこで井藤は恩田のフィジカルの強さを知ることになる。恩田は自分と似た「上手さ」を持っていて、自分にない「強さ」を持っているフットボーラーだった。井藤はそんな恩田に対抗意識を燃やすようになり、彼女のコンプレックスだったフィジカルとも向き合い始める。そして井藤は恩田を単なる興味の対象ではなくライバルとみなすようになり、公式戦でまた試合をすることを約束するのだった。

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引用元:さよなら私のクラマー 第13話(第4巻収録)




『さよなら私のクラマー』を恩田希に焦点を当てて読むと『さよならフットボール』が『さよなら私のクラマー』の中の1エピソードであるように感じられる。『さよなら私のクラマー』は出会いを通して様々な人物が互いに影響を与えあって成長していく群像劇だ。恩田希もまたその登場人物の1人なのである。




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新装版 さよならフットボール(1) (月刊少年マガジンコミックス)

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